
【“外と内をつなぐ”ノマドワーカーの移住ストーリー】
「空き家との出会いが移住のきっかけ」
――そう語るのは、2024年9月に京都市伏見区へ移住した「三木健吾」さん。
元クリーニング店だった、築60年超の空き家をリノベ―ションして「ノマドマ伏見」を立ち上げられました。「内と外」をテーマに、伏見の新しい営みが生まれつつあります。
2026年1月には日本酒の唎酒師も取得され、ますます活躍が期待される、そんな三木さんにお話を伺ってきました。
【空き家を使って、なんかオモロいことができないかな】
東京で会社員として働いた後、2016年にJターンで京都市に来て10年ほどになります。
2019年からは地元の兵庫県川西市との2拠点を中心としたノマドワーカーを始め、国内海外のいろんな場を訪れた中で、自身もそうした人たちを迎える外と内をつなぐ役割を担いたいと考えるようになりました。

京都市に来て10年ですが、伏見区は数回訪れたぐらいで、拠点づくりをする未来は想像していませんでした。
アート展のイベント会場探しをしていた際にたまたま紹介されたこの建物。伏見桃山駅や大手筋商店街から近く、「いろいろできそうだな」と第一印象を持ちました。
【DIYを始めるも手強く、プロの手を借りることに。】
はじめは、友人たちの手を借りつつのんびりしていたのですが、思ったよりも難しくてリノベが進まず、友人を手伝に工務店の方に改装をお願いすることになりました。解体や塗装、内装は友人たちと一緒に作っています。
移住から3ヶ月経った12月頃から、飲み会をやったり、人の賑わいが生まれ始めました。
現在、平日日中は仕事や自習のできるお茶の間コワーキング、週末夜はシーシャバーなどを営業しています。

コワーキングスペース
【伏見での暮らしの延長として】
スペース運営をする中で意識しているのは、ビジネスとしてよりも「暮らしの延長」として行う、ということです。
実際に伏見で暮らし始めて感じたこのまちの“ちょうどよさ”。
仕事柄、車移動も多い私にとって、車でも公共交通機関でも生活しやすい伏見桃山はちょうどよいのです。
京都市中心部ほど駐車場も住居も高くなく、それでいて不便でもない。高速道路にもアクセスしやすく、大阪や地元川西市へも出やすい。都市の中心でもなく、完全な郊外でもない。
その中間にあるバランスが、自分の生活スタイルにはすごく合っていました。また、伏見は歴史的に港町として栄えてきた背景があります。人やモノが行き交う場所で、外からいろんなものを受け入れてきた土地でもある。実際に住んでみて、「外とつながる性質をもともと持っているまちなんだな」と感じました。
【「外と内をつなぐ場」をつくりたい】
自分の中にあるテーマは一貫していて、「外と内をつなぐこと」。
伏見には魅力的なものがたくさんあります。でも、それが外に十分伝わっていないと感じることもありますし、逆に外から新しい価値観が入ってくることで、このまちがもっと面白くなる余地もあると思っています。その両方をつなぐ場所として、この拠点を育てていきたいと考えています。
その取り組みの一つが、「ノマドマビジネス交流スクール」です。
月に数回、10名ほどの少人数で開催していて、外部からゲストを呼んだり、参加者同士で話したりしながら、学びと交流を組み合わせた時間をつくっています。いわゆるセミナーのように一方的に学ぶ場でもなく、単なる交流会でもない。その中間のような、ゆるやかに人と人がつながっていく場を目指しています。ここで出会った人同士が、その後一緒に何かを始めたり、コラボにつながったりすることもあって、少しずつですが広がりを感じています。

【日本酒を通じて、伏見の魅力を伝える】
2026年1月には、日本酒の唎酒師の資格も取得しました。
伏見は言わずと知れた酒どころなので、日本酒を通じてこの地域の魅力を発信していきたいという思いがあります。まだ勉強中の部分も多いのですが、きちんと説明できるようになって、来てくれた人に楽しんでもらえるような企画も考えていきたいと思っています。

伏見といえば日本酒。商店街には利き酒できるスポットも。
【「人」で成り立つ場所にしたい】
ノマドマ伏見は、設備が整ったコワーキングスペースではありません。だからこそ、「人」で価値が決まる場所にしたいと考えています。
オモロい出会いがあったらいいな。
ここでいう面白さは、スキルや肩書きではなく、「一緒に場を楽しめるかどうか」や「関係性を築いていけるかどうか」です。
今後は、月額会員制度なども取り入れ、月に一度バーテンダーとして場に立ってもらったり、一緒にイベントを企画したり、お客さんというよりは、一緒に場をつくる仲間のような関係性を築いていきたいです。最終的には、面白い人たちがよなよな集まる“秘密基地”のような場所になっていけばいいなと思っています。

【足りなかったら、自分たちでつくろう】
伏見は住みやすいまちですが、一方で、若い世代やクリエイティブな人たちが集まるような文化は、まだ少ないと感じています。
「かつて住んでいた東京の下北沢と同じように、ふらっと歩くだけで楽しい街なのに違いって何だろう?」とふと考えたとき、“サブカルチャー”だと気づいたんです。
音楽、演劇、アート、映画――
大学生が多かった時期もあるそうですが、キャンパスの移転などで減ってしまったと。表現の場が多くなれば、若い人たちがまた集まってくるまちになるんじゃないかという気がします。
すでに充実している飲食店などの「消費の場」ではなく、「何かを生み出す場」はこれから増やしていける余地があるふうに感じます。
例えばですが、動画配信サービスではなかなか出会えないようなニッチな映画をみんなで観て、その後に感想を共有する、プチ映画上映会を開催したり。そういう小さな文化的な体験を積み重ねていくことで、少しずつまちの空気も変わっていくんじゃないかと思っています。
【「余白」があるからこそ、できること】
自分が伏見を選んだ理由の一つに、「余白の多さ」があります。
中心地と比べてプレイヤーが多すぎず、これから何かを始めたい人にとってはチャンスが多い場所です。賃料も比較的抑えられるので、無理なくスタートできる。競争が激しい場所で勝ち抜くというよりも、まだ形になっていない場所で、自分なりの価値をつくっていく。そういうやり方ができるのが伏見だと思っています。

伏見区を模ったオブジェ
【「風の人」として関わるということ】
自分は地元の人間ではなく、外から来た存在です。だからこそできることもあると思っています。
外の視点を持ち込みながら、新しい動きをつくる。一方で、地域の中にいる人たちがいるからこそ、その動きが意味を持つ。
内と外、その両方があって初めてまちは面白くなる。その間をつなぐ“風のような存在”として関わっていきたいと考えています。
移住者としての立場だからこそ、外の価値観を持ち込みながら、内側の魅力を引き出す役割を担っていきたいですね。

【これから伏見で暮らす人へ】
これから伏見への移住を考えている人に伝えたいのは、「何かやってみたい人にはすごく向いている場所」ということです。
便利さもありながら、余白もある。
すぐに結果を求めるというよりは、自分のペースで何かを育てていきたい人にとっては、とても良い環境だと思います。
完成されたまちではないからこそ、自分の関わり方次第で景色が変わっていく。そのプロセス自体を楽しめる人には、きっと合うはずです。伏見というまちの中で、自分なりの居場所や役割を見つけていく。そんな関わり方ができる人が、これから少しずつ増えていけばいいなと思っています。