全国に理美容室は35万軒以上あると言われており、信号機やコンビニエンスストアより多く存在します。そんな誰でもどこでも髪の毛を切ることができる環境が整っているにも関わらず、理美容室に行くことが難しい子どもたちがいることをみなさんはご存知ですか。発達障がいのある子どもたちが将来理美容室に行けるようになるための取り組みを実施されている、NPO法人そらいろプロジェクト京都。同法人の理事長であり、伏見区内にあるPeace of Hairの代表でもある赤松隆滋さんにお話をうかがいました。

スマイルカットが生まれるまで

絵本の読み聞かせをするように、小さな子どもたちにとって髪の毛を切ることが楽しい思い出になってほしいという思いから、地域の児童館で前髪の切り方を教える「ママにもできる!チャイルドカット講座」をスタートしました。スタートして約1年後に、発達障がいのお子さんをもつお母さんに会った赤松さんは、お子さんが美容室に行くことが難しいという相談を受けました。椅子にじっと座ることが難しかったり、バリカンなどの大きな音でパニックになったりする発達障がいのある子どもたちにとって、美容室に行くことはハードルが高いものです。お母さんの願いは、「美容室の椅子に座り、髪の毛を切ってもらえるようになりたい」というものでした。ここから「スマイルカット」が始まりました。

当時の児童館の先生が「スマイルカット」と名づけ、子どもも、保護者も、美容師も、みんなが笑顔で髪の毛を切ろうという思いが込められています。

「発達障がいがある子どもたちは、困った子どもではなくて、困りごとを持っている子どもたちです。その子どもたちに、髪の毛を切ることについて、僕たち美容師は『大丈夫だよ』と手を差し伸べないといけません。美容師はヘアカットのプロ。どうすれば子どもがリラックスし、髪の毛を切ることは怖くないということを理解してくれるのかに焦点を当て、切るまでのアプローチをお伝えしています。その人にどれだけ寄り添えているか、が大切です。」

美容室「Peace of Hair」の内観

「スマイルカット」ができる理美容室の目印

子どもたちの成長とともに感じる、活動の醍醐味

Peace of Hairで、一定の基準までスマイルカットができるようになり、どこの美容室に行っても大丈夫となったら、卒業証書を渡します。子どもに渡していますが、お母さんにも渡している気持ちでいます。最初はお母さんも大変でしたが、「一緒に頑張ってきましたね」という思いを込めています。

「卒業証書を家に持ち帰ったら、お父さんにとても褒められたそうです。その子にとってとても嬉しかったようで、それをきっかけに苦手な病院に行くと言い出したとのこと。後日、『今、病院から帰ってきて私も嬉しかったけど、それ以上に本人がとても喜んでいます。』というメールがお母さんから届きました。その瞬間、美容師の仕事としてだけでなく、この子の人生に少し役に立てたという、なんともいえない嬉しさを感じました。これはスマイルカットならではの感動ですね。」

お店に来るまでの間、子どものモチベーションをあげたり、家で髪の毛にクシを通す練習をしたり、そのようなことをしてきた親御さんと本人の頑張りを一緒に分かち合うことができる、「スマイルカット」。親御さんの中には、お子さんが髪の毛を切ることはできないと思っている方もいらっしゃいます。無理と思っていたことが、想像を超えてできる子どもの姿を見て感動されます。髪の毛を切ることを通して可能性が広がっていきます。

卒業証書が自信になり、さまざまなことに挑戦していく子どもたちも多くいます

スマイルカットの時、見通しを立てることで子どもたちの不安な思いが和らぎます

地元・伏見で美容師としてできることから

「スマイルカット」が生まれるきっかけとなった「ママにもできる!チャイルドカット講座」は、赤松さんが生まれ育った伏見で「伏見に貢献したい、伏見の子どもたちや親御さんの子育てのお手伝いをしたい。」という思いからスタートしました。見習いの時から自分の店を持つ夢を抱き、独立するなら伏見と決めていました。現在も伏見在住の同級生が多く、同級生やそのお子さんが美容室を訪れ、友人との挨拶や交流が日常の一部となっています。

「地元の友人は、あっさりした性格の人が多いですね。言うことはしっかり言いつつも優しさがあります。そういう人間性が好きですし、伏見がもつ独特の空気感が好きです。」

現在、赤松さんは美容師として働きながら、大学院に通っています。2年間の大学院生の間に論文を書き上げ、論文に即したスマイルカットのマニュアル作成を予定しています。

「美容師、大学院生、講演会など、さまざまなことを実施していると捉えられるかもしれませんが、僕にとっては1つで、すべて美容師の仕事です。NPO法人もつくっていますが、あくまで美容師の仕事の一環です。

今、美容師としてできることがたくさんあります。目の前のことに追われているような感覚になるときもありますが、求められること、必要と思うことができて幸せです。すべて、自分がやりたいことをさせてもらっていますし、それに対して協力してくれている仲間もおり、感謝しています。

目先の仕事をこなすのではなく、生み出そうとしているという感覚があります。生み出すことは、自分にとってとてもやりがいがあることです。やらされていたら嫌になりますが、自分から進んでしていることなので夢中になってしています。」

伏見駅から歩いてすぐ、お店の前には公園もあります

当たり前の社会を目指して

現在、スマイルカット登録店は全国で約90店舗。まだまだその存在を知られていないと話す、赤松さん。近くにスマイルカットの理美容室がないため、車で何時間もかけてPeace of Hairに来られる親子もいます。遠方の場合は負担であり、家の近くにそういったお店があることが望まれます。

「僕は理美容師を対象に講習会を行なっていますが、それも限界があると感じています。美容師になるための国家試験に学科試験と実技試験がありますが、その学科試験の教科書に『障がい者に対する合理的配慮』という一文を入れてほしいと思っています。美容師を目指す学生が障がいのある人に対して、合理的配慮をきちんと理解したうえで、接客できるようになることを当たり前にしたいのです。そんな当たり前が全国どこの理美容室でも実現し、NPO法人そらいろプロジェクト京都は役割を終えて解散できる日がくることを、目標としています。」

偶然の出会いや出来事がきっかけで美容師になり、「スマイルカット」を始めた赤松さん。「偶然に思えた出会いは自分にとっての必然。スマイルカットを通してたくさんのことを学び、人として大きく成長させてもらいました。たくさんの仲間もできました。これからも続く美容師人生。スマイルカットを広めるため、楽しく取り組んでいきます」

子どもも大人も親しみやすい絵本を通して、想いを伝えています

下記リンクより、 Peace of Hairそらいろプロジェクト京都のホームぺージをご覧いただけます

京都伏見 美容室|美容院 ヘアサロン Peace of Hair(ピースオブヘアー) (peace-of-hair.com)

そらいろプロジェクト京都|特定非営利活動法人 (sora-pro.jp)